「今日流星群らしいよ〜」 出掛けにロードが声をかけてきた。流星群?と首を傾げていると、後ろで双子がそんなことも知らねーのか!!と笑い転げていたが無視した。 「流れ星がいっぱい降るんだってサ。」 今夜晴れると良いねぇ♪なんて何だか今日は機嫌が良いな。と思いきや 「お前流れ星とかいうキャラかよ!」 と言うデビットの一言で喧嘩が勃発した。 もうティキの事など頭に無いであろうちびっこ達に一応行ってきますと言い残して仕事に向かう。 血で汚れてしまった手袋を外して投げ捨てる。 くわえていたタバコを口から外し吐いた煙を追って空を見上げると気持ちの良い快晴が広がっていた。 (今どうしてるかな。) 最近そう思うことが増えた。 例えば街で旨い物を食べた時、見たこともない文字で書かれている本を見つけた時、季節の変わり目を感じた時。 あの子と一緒に見たい感じたいと思うようになった。 (流星群、知ってるかな。) 一緒に沢山の流れ星を見たら、どんな顔をするだろう。喜ぶだろうか。 あの子の予定だとかいろいろ考える前に足は教団本部へ向かっていた。 「ラビ!流れ星を見に行こう!!」 何時ものように窓からこんにちはをしてラビ(とブックマン)の部屋に入り込むとちょうど部屋に帰ってきたらしいラビがドアを開けて入ってくる所だった。 「………んな、ばっ…おま!!」 一瞬驚いて固まったかと思うと慌てて部屋に入りドアを閉めてティキに掴み掛かってきた。 「見られたらどうす……っ」 慌ただしく動いていたラビがピタリと止まった。 ん?と見下ろせば自分の胸ぐらを掴んでいた手を外し見詰めている、その手は赤い。 (あ、やば……。) と思うが遅い。 ラビの顔色は白く下ろした左手は震えるほど強く握られている。 「帰れ。」 「ラビ…」 「帰れよ!」 今入ってきたばかりだというのにラビはティキに背を向け部屋を出ていってしまった。 バタンッと大きな音をたてドアが閉められた。 大失態だ。 こんな失敗………度々やらかしますが。 ラビの事を考えると正直ノアだエクソシストだなんてどうでもい。 だから俺にとってラビに会いに来るのと教団と戦争することは全く別の思考回路で、時々失念してしまうことがある。 (ラビはそう思ってはくれないのだろうか) まさかとかまたとかどうしてとか、いろんな単語が頭の中でぐるぐる回っているけど1つも言葉に出来る気がしない。 (恐らく)仲間を殺したその足でオレのとこにやって来る彼奴の気が知れないし、そんな事で動揺しながら彼奴を断ち切れない自分にも嫌気が指す。 今はとにかくこの血を洗い流したい。 「ラビ!早かったですね。」 足早に廊下を歩いていると後ろからアレンが声をかけてきた。 立ち止まってアレンを待つ。 「ん……間に合わなくてさ。合流しないでそのまま帰ってきた。」 「そう、だったんですか…。」 本当は自分達の任務を終えて他の部隊と合流するはずが、ラビ達が向かう前に敵の奇襲に遭い全滅してしまった。 次の任務があるからと現場はファインダー達に任せエクソシストはそのまま教団へ帰還の指示が出たのだ。 「ラビ!?血がっ!!」 アレンがオレの手と袖の血を見て慌てる。 それに緩く首を振り大丈夫と答える。 「オレの血じゃないから。」 誰のだか知らないし知りたくもない。 「…ラビ、今夜星を見に行きませんか?」 オレが手を洗い終わるのを待ってアレンが躊躇いがちに聞いてきた。 「星?」 「はい。ジョニーに教えてもらったんですけど、今日流星群が見られるそうなんです。」 「流星群…。」 そう言えば、ティキが流れ星がどうとか言ってたのを思い出す。 (流星群のことか…) 「リナリーがもうすぐ帰ってくるそうなんで、皆で見に行こうかと。どうですか?あ、神田は呼んでないですけど。」 「呼んだげてよ。ユウ可哀想じゃん。……面白そうだし、皆誘って行くかー。」 努めて明るく言えばアレンがぱっと嬉しそうに笑った。 内心それ所ではないのだけど一人で居ると余計なことばかり考えそうだ。 「少し雲が出てますね。」 「うん、でも風もあるしこのくらいなら大丈夫そうだよ。」 「ジョニー、どの辺りから流れるの?」 「んーと、放射点が北東だから…あっちに足向けて仰向けに寝転んでれば良い感じかも。」 「全体を見てれば良いの?」 「うん、足下の方向から全体にまんべんなく流れてくると思うよ。放射点から離れた方向の流れ星は長く見られるんだって。」 「あっ、神田何処行くんですか。」 「くだらねぇ。寝る。」 「ぅおっ、流れたさ!!」 「!!」 「えっ本当ですか!?」 「あっ見えたわ!!」 「……何処だ。」 「あれ、ユウ寝るんじゃないの。」 一番沢山見える時間に合わせて出てきたのですぐにあちこちで星が流れ始めた。 アレンとリナリーはすごいすごいと大はしゃぎだ。 確かに絶え間無く星が降り続ける光景は圧巻だ。 「凄いな…。」 「ああ…。」 隣にいたユウも思わず見入ってしまう程だ。 (ティキはこれを見せたかったんだ…。) ピークが過ぎたのか流れ星も疎らになり眠気も頂点に達して来たので休むか、と帰ることになった。 「ラビ、入らないの?」 その場を動こうとしないラビにリナリーが眠い目を擦りながら振り返る。 その姿にリナリーは任務から帰ってすぐ此処に駆け付けたのを思い出した。 「へへ、もう少し。リナリー疲れただろ早く休みな。」 「…うん、あんまり長居しちゃだめだよ。ちゃんと寝てね?」 自分もへとへとだろうに此方の心配をするリナリーにわかったわかったと苦笑しながら手を振る。 リナリーの気配が遠ざかってから、さて。と太腿のイノセンスを手に取り発動させた。 伸伸と唱え槌の柄を伸ばし本部から少し離れた所で着地する。 彼奴が何処に居るかなんて知らないし想像も付かないけれど、しんと静まり返った街を歩く。 探そうにも心当たりは全く無いのでとりあえず天体観測が出来そうな小高い場所を探す。 都合良く現れはしないかと思ったが、会わないままに街外れの丘に辿り着いてしまった。 しかも空には雲、足下の草は湿っている。 溜め息を付いてそのまま草っぱらに仰向けに倒れ込んだ。 「なに、やってんのマジで。」 あーもーと両手で顔を覆う。 その時頭の上でサク、と草を踏む音がした。 「濡れるよ…。」 「…知るか。」 顔を覆った手はそのままに応えると、声の主は近付いて来て隣に座った。 衣擦れの音がして冷たい手が頬に触れた。 「冷たっ!!」 思わず飛び起きた。マジで冷たい。深夜寧ろ早朝で気温が低いとはいえこの季節だ。其処まで冷えないだろう。 横に座る男を見れば濡れている。半端なく濡れてる。まるでバケツの水を頭からかぶったようだ。 「…アンタがびしょびしょじゃんよ。どうしたんさ。」 「え、さっきまで雨降ってたでしょ?」 「うっそマジで。だから地面濡れてんのか。」 「ラビ、誕生日おめでと……。」 「は?3日前だけど。」 ティキの冷たい手を掴み擦っていると俯きながらポツリと言い出した。 「うん、当日は言えなかったから。だから、今日……。」 言おうと思って…と項垂れてしまう。 もし、会ってしまったらどんな顔をすればとか、昼間の事を思い出してまた突き放してしまうかもとか、いろいろ考えていたけれど何かもうそんなの一気に吹っ飛ぶようなご登場でした。流石ティキ・ミック(26) 今は27か?いやそんなのどうでもいい。落ち込みすぎだろこの人。オレかオレのせいか。 「残念だったな、流れ星。」 「へ?流れ星?」 「今日、沢山見えるって聞いたから。誕生日会えなかったしラビと見ようと思ったけど、雨だったしな。」 何だか散々なこの男を前にさっきまでばっちり流星群を見ていましたなんて話すのは憚られる。 (教団は雲の上だったんか……。) びしょ濡れでしょんぼり膝を抱えうずくまるティキに掛ける言葉もない。 こんな姿を見るとつい敵だなんて忘れてしまったりするけれどこいつのしていることを許せる訳じゃない。 視線をさ迷わせ見上げた空は雲が散り始めていた。 「………ティキ。空見てみ。」 「……晴れてきたね。」 「転がれ。仰向けで。」 自分も寝転がりながらティキの腕を引く。 「流星群のピークは昨日の深夜から今日の明け方まで、まだギリギリ見えるかも。前後数日は出現期間に入るから空眺めてれば何日かはいつもより少し多く流れ星が見られるかも知れないさ。」 「ふーん…。」 「あっ!ほら流れた。」 「えぇ何処?」 「同じとこばっか見ててもダメさ。空全体を見るの。」 「…難しいな。」 暫く流れ星を探して二人とも無言になった。 『あっ!』 「見たか!?」 「見た見た。」 「ははっ流れたな。」 「満足か?」 「……空なんて、こんな風に見たことないよ。」 「だろうな。」 ティキが天体観測だなんて想像できない。 「ティキ、オレ帰るさ今日朝から任務だから。」 「へぇ、何処行くの?」 「言うか馬鹿。」 ちぇー…と言いながら起き上がろうとしているのでじゃあねとティキを待たずそのまま街へ引き返した。 ********** 2012/7/20日記 力尽きた。 ただティキに流れ星見に行こうぜ!て言わせたかっただけなのに。 ほのぼの天体観測してほしかっただけなのに。 放射点がどうとか適当ですすみません。 外国で星がどんな風に見えてるのとか日照時間も気候すら全然わかんないし。 来月まで待てばラビ誕流星群でタイムリーだったのに待てなかった駄目な人。