机に向かいノートを広げていると此方に誰かが来る気配がしたので少し椅子を傾け入り口の方を見た。


「どぉしたのティッキー、ボロボロだねぇ。」


外から帰ってきたティキは確かにボロボロだった。髪はボサボサ所々に擦り傷、せっかくのタキシードは汚れまくっている上に若干焦げている場所まである。
その出で立ちに反し表情は気持ち悪いくらいに笑顔だ。


「いやー、ちょっとラビにね…。」


聞いたのが馬鹿だったとばかりに目を細め、やりかけの宿題に戻る。
しかしティキは緩みきった顔のまま机の向かい側に腰掛けた。
ぶっちゃけウザいのでそのまま部屋に引っ込んで欲しかった。


「……また怒らせたのぉ?」

「照れてんだよあれ。キスしたらさー顔真っ赤にしてバシバシ叩いてきて、終いに槌で焼かれそうになった。」


そんなトコも可愛いんだけどね!とヘラヘラしているティキに呆れる。
いつもいつも懲りない奴だな。ラビにしたって過剰反応だ。
なんて思っていたらふとある事が気に掛かった。


「………。」

「何だよロード、何か言いたげだな。」

「……"ラビ"ってティッキーの事、好きなの?」

「え、当たり前じゃん。」

「…本当にぃ?"ラビ"がそう言った?」

「……。」


思い返すと、そう言えば言われたことは無いかも知れない。
あれ……無かっただろうか。
いやいや、でもその気がないなら本気で追い払う所か殺しにかかるだろう大丈夫大丈夫!………だよね?
え、実はノアの事を探るためにとかだったらどうしよう、まじで。
でも!あの子考えてること顔に出すぎだからもしそうなら絶対解るって。
本当に…?そういやあの人一応ブックマンの後継者でしたっけ。
実は演技なの?まさかあの俺の心鷲掴みのちょっとバイオレンスなツンデレは演技なの!?
考え始めると居てもたってもいられず椅子を倒しそうな勢いで立ち上がった。


「ちょっと、行ってきます!!」

「いってらぁ〜。」


戻ってきたばかりのティキは教団へ引き返した。








部屋にラビ以外の人間が居ないのを確認してそのまま勢いよく壁をすり抜け部屋の中へ入る。


「ラビ!!」


「うぎゃ!ティキ!?」


ティキが帰ったばかりで油断していたのだろう、腰掛けていたベッドから落ちそうなほど驚いている。持っていた本を取り落としそうになり慌てて抱え直していた。
それもそうだ、仲間達に見付からないようお互いの時間を上手く合わせ(主に一方的にだが)やっと会えても取れる時間が少なく、すぐに別れなければいけない事が多い。
別れてすぐに引き返して来た事など今までに殆ど無い。


「ど、した?忘れもん…?」

まだ混乱気味のラビに構わず詰め寄り壁際まで追い込みじっと目を見つめて話を切り出す。


「ラビ、俺の事好き?」

「……へぃ?」

「どうなの。」

「ちょ、ちょいまち。それだけ?それ聞きに帰ってきたんか?」

「だって聞いたことないかな、って思って。」

「………。」


返事は無い。俺の視線から逃れるように目を泳がせる。
捉え方によっては隠し事の核心に迫られどう誤魔化そうかと考える表情にも見えるかもしれない。
しかし俺には、そんなん恥ずかしくて言えるか!と困り果てている顔に見えるのは錯覚でしょうか。

「ラビ…。」

「っそんなん……。」


ラビが口を開いた瞬間ドアがノックされ聞き覚えのある声がラビを呼んだ。


「ラビー、まだ寝てるんですか?」

二人してベッドの上で固まり、声のトーンを下げながら慌てふためく。


(やばい。オレっ鍵かけてねぇさ!)

(マジか。)

(ティ、ティキ早く帰れって。)



ラビのその言葉に少しムッとする。大事な話してんのに、少年を追い払うくらいしてほしいものだ。


(ラビ、俺よりイカサマ少年を選ぶの?)

(当たり前さ!)


即答ですよ。
俺は傷付きました。
いいから今日は帰れ!と言いながら頭と肩を掴み足で腹を押し退け窓側の壁へと俺の体を押し付ける。酷すぎる、俺は全然よくない。
ドアの前ではまだ少年がラビを呼んでいる。


「ラービーごはんですよー。」

「ア、アレン!!ちょい待ってて!すぐ行くから。」


いつ入ってきてもおかしくない少年に返事をしてこちらに向き直るとギッと睨み付け、は や く 行 け !とぎゅうぎゅう押してくる。
今日は無理そうだ、と観念して透過を始め徐々に体が壁に呑み込まれて行く。
体が壁に呑まれきる直前にラビが頭突きをしながら言う。痛い。


「アンタ…オレと何年の付き合いなんさ!それくらい、解れよ…!」


ラビが言い終わるのと俺が壁を抜けたのと同時に壁の向こうでゴツンと音がした。大丈夫か。







「と、言うわけで言わなくても心は一緒だろって感じでした。」

「えぇー…ホントにぃ?」


思ったよりも早く帰って来たティキは要らないのにわざわざ事の顛末を話し始めた。
しかも結局さっきと同じように追い返されたらしい。
ラビの言葉も安易に解釈しすぎだろ、とも思う。


「大体なー、お前が変なこと言うから。」

「だってぇJr.がティッキーを利用しようとするなら未だしも。」

「そんな…。確かにこの状況じゃ完璧に割り切れとは言えないけどね。」


俺だってそう簡単に利用されてやる気も殺されてやるつもりもないし。
そんな駆け引きもなかなかにスリルがあって愉しいもんだ。


「でも、まぁ、ラビがエクソシストになったのは予想外だったわ。」


溜め息混じりに呟けばロードはきょとんと見つめ返してくる。


「……ティッキー何時からJr.と会ってたの?」

「あれ……知ってるんだと思ってた。」

「えー…"ラビ"の名前を聞き始めたのはこの2年くらいだよ。」

「そうね、それまでは名前教えてくれなかったからね。」


今のラビも可愛いし面白いのだけど、当時のあの子もなかなかに興味をそそられる少年だった。
人懐こそうに笑うくせに表情からは感情が読み取れない、ふいに見せる何もかもを拒絶するような冷めきった眼。
あの頃はお互い好奇心だけで特別な感情はなかったけれど。

それを思えば今は表情も豊かになり随分丸くなったものだ。
だからこそ"解れ"って話な訳で。

今更好きだ嫌いだなんて単純な言葉じゃ言い表せないし。
愉しく遊んだ次の日には殺し合いしていたり、派手に喧嘩をしていたらうっかり他のエクソシスト達に見付かりそのまま戦闘になってしまったこともある。全くドラスティックなお付き合いですコト。

そりゃ勿論言葉で聞けるなら是非君の声で聞きたいけれど、今は別れ際の切羽詰まった真っ赤な顔が見られただけで満足だとしておこう。



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2012/7/15日記
え、何年の付き合いなんですか?

キャラをそのキャラらしくって難しい。
どうしてもラビが深刻になりすぎるので、現代パロでゆるく気楽にしてあげたい。

でも書きかけの他の3つも原作沿いだ。