「ラビ!おい、ラビ!!」

街の人混みの中で見慣れた明るい色の髪と団服を見かけ、声を掛けたが相手は振り向かなかった。
聞こえなかったか、と追いかけ距離を縮めながら再度名前を呼ぶ。

「ラビ!」

しかしまだあの子は振り向かない。
人混みを掻き分け肩を掴み漸く相手は止まってくれた。

「ちょ、シカトですか?……あれ?」

やっと振り返ってくれたが、同時に思いっきり睨まれた。
それもあるのだが、予想していたと言うか当たり前に思い浮かべていた相手、ラビの面差しと少し雰囲気が違ったのに一瞬戸惑った。
何処がと聞かれるとよく解らないのだが後ろ姿ではラビだと確信していたのに、振り返った相手はラビ…?と言う感じだ。

「……人違いです。」

よく解らない違和感に首を傾げていると、記憶より少し高いような、けれど確かに彼の声で……

「え、人違い?」

いやいやいや。ラビでしょ。髪と目の色も眼帯と首に掛けたちょっと変わったデザインのバンダナだって間違いなくいつもあの子が身に付けているものだ。
何より着ているコートのローズクロスがこの人物は黒の教団のエクソシストだと物語っている。
この容姿にエクソシストと来たら、

「ラビだろ?」

「アンタなんか知らないさ。手、離して。」

「は?何言ってんの。怒ってるわけ?確かに暫く会いに来れなかったけど…」

手を振り払い今にも歩き出してしまいそうなラビの両肩を慌てて掴み身体ごと自分の方へ向かせる。
真正面から見ると違和感が増した。

「……何か雰囲気変わったね、髪伸びた?」

いつもバンダナで上げている髪を下ろしているから幼く見えるのだろうか。

「だから、人違いだって!」

尚も肩に置かれた手を振り払おうと身体を捩るラビの腕を少し乱暴に掴んだとき、気付いてしまった。





……胸の膨らみに。

その瞬間掴んだ腕の柔らかさや長い睫毛、細いながら少し丸みを帯びた身体のラインに違和感の正体を知る。




「…………ラビ、女の子だったっけ。」

「人違いだとは思わないんか!!」

固く握り締められた右拳が鳩尾に叩き込まれました。





落ち着くとティキはラビの変化をよく見ようと眺め回す。

「何々、どうしてそんな面白いことになってんの。」

「ニヤニヤすんな気色悪い。」


期待を裏切らず、原因はお約束の科学班である。
ジョニーに頼まれアレンと共に科学班の倉庫で探し物を手伝っていたのだが、棚の上に×マークのついた怪しげな箱をアレンが見付けたのだ。
ジョニーにも心当たりが無く、アレンが背伸びをして箱に手を掛けたところでバランスを崩し棚から箱が真っ逆さま。
中に入っていた薬品を3人揃って頭から被り気付いたらこの有り様だった。

慌てたジョニーに引っ張られ呆然としたままリーバー班長の元へ駆け込んだ。
一体何のために作られたのか皆目検討もつかないが、数日で元に戻るだろう(多分)との班長の言葉を信じて部屋にでも引き籠るか。とアレンと話しているところにリナリーがやって来た。

始めこそ戸惑っていたが事の経緯を聞いたリナリーは目を輝かせアレンの手をしっかり握り締め言った。

「アレン君、私の服着てみない?」

にっこり。うん、可愛いねリナリー。
そのまま有無を言わさずアレンは連行され、一人残されたオレは噂を聞き付けた団員のからかいの的にされる前に逃げたしてきて今に至る、と。

「教団面白ぇー。」

他人事ならばラビもそう思えただろう。
人の気も知らないで!と睨み付けてやる。

「だから元に戻るまで本部には帰らないんさ。」

「へぇ?……じゃあ戻るまでオレと遊ぼうよ。」

「…は?」

「帰りたくないんだろ?オレも丁度暇だしこうしてせっかく会えたんだし。」

「………変な気起こさないなら。」

きょとんと見つめ返してくるティキに、もしかして彼に他意は無く自分ばかり身構えていたのかと恥ずかしくなり勢いよく顔を背けると、

「それは無理でしょ。」

ですよねー。
結局予想通りのティキの言葉に思いっきり足を踏みつけてから歩き出した。
後ろで何か呻いてるけど知るもんか。




3日後アレンとジョニーは元に戻り、その日の内にラビも本部に帰ってきたが、風邪を引いたと言ったきり部屋に閉じ籠ってしまい1週間後ブックマンに部屋から引きずり出されるまで出てこなかった。


「ラビ、大丈夫ですか?」

「アレン、ちょっと…暫くそっとしといて。何も聞かないで。」

(…外で何かあったのかな……。)

食堂で会うなり背中に抱き付いて離れなくなったラビの頭をよしよしと撫でながら食事を取る。
ラビが元の調子を取り戻すのに更に数週間かかったとか。





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2012/5/15日記
ティキにとことん遊び倒されたんじゃないかな……?

何でラビが「ティキ」って言うと可愛く見えるんだろうか。