任務中にやらかして、全治1ヶ月の怪我。
婦長からのベッドで安静命令が解けた2週間目、教団内を歩き回るのは良し。しかし患部を使うようなトレーニングましてや戦闘は言語道断。
コムイと並んでその威圧感に二人して、はい…。と答えることしか出来なかった。

そして教団内を暇そうにうろうろしていればあちこちで雑用頼まれるし部屋に籠っているのも厭きたので買い物と称して街をぶらぶらしに来た。

「うーっ寒い。」

こんな寒い日の午前中にも関わらずこの路地は沢山の人で賑わっている。
市が立っていてみんなそれを目当てに集まっているようだ。
何か旨そうなもんねーかなときょろきょろ見回しながら歩いていると人とぶつかった。

「っと、すみませ……」

ぶつかった相手の顔を確認した瞬間すぐに踵を返そうとしたがガシッと肩をを捕まれた。

「っ離せ!!オレ今日非番なの!!アンタなんか知らねーさ!!」

「おいおい。神の使徒様としてどうなのその台詞。」

苦笑しながら、なんもしねーよ。と言いつつしっかり掴んだ肩は離してくれない。この男は教団の宿敵千年伯爵の仲間ノアのティキ・ミック。

「俺も仕事の前に腹ごしらえしようと思って寄っただけなんだよね。」

「ならお互い見なかったことにするのが最善さ。んじゃ。」

さっさと人混みに紛れようとするが思いっきりマフラーを引っ張られた。

「ぐふっ」

「助けてください。」

「は?」

「実はこの人混みで財布を掏られたようで手持ちがない。」

「知るか。」

真面目な顔で何だと思えば……コイツは本当にノアか。
ばしっとマフラーを掴んでる手を叩き落とし歩き出そうとすると本格的にしがみついてきた。ちょ、首絞まる…!

「哀れな美青年を助けると思って!!」

「自分で言うなキモい!良い大人が子供にたかるなよ!!」

「俺とお前の仲だろ!?」

「いつも殺しあいしといてどんな仲だ!宿敵さ!!」

ふいに俺の耳元に顔を寄せて低く呟く。

「怪我して本調子じゃないんだろ?飯おごるだけで見逃してやるって言ってんの。」

振り返れば厭らしい笑みを浮かべた男。言外に殺ろうと思えばすぐに殺せるんだぞ、と。
しかし。

「…言ってる事めちゃくちゃカッコ悪りぃさ。」

「うっせ。」



結局、しつこく付きまとうこの男を連れて市を見て回ることになった。

「あっ、なあアレ旨そう!」

「無理、高い。」

「ええぇぇケチー。」

「おま、奢って貰ってる分際で贅沢言うな!」

既にいくつかコイツの欲しいもん買ってやっているのだからもっと遠慮してほしいものだ。
って言うか何してんだろ自分……。

「ラビ、俺とお前は偶然此処で出会った、これは運命だ。」

「金ヅルと言う名のな。」

「今、俺良いこと言うとこだったのに!!」

「この状況でアンタが何言ってもカッコつかねぇさ。」

「良いじゃねぇか。食いもん一つくらいでケチケチすんなって。」

「オレもそんな手持ち無ぇっつの。こんなたかりに会うとは思ってなかったんで!」

店の前で押し問答していると見かねた親父さんが商品を1つ分の値段で二人分におまけしてくれた。
大変申し訳無い。

これ以上あれこれねだられても堪らないので、市を抜けて広場の噴水の縁に腰を下ろし食事タイムとなった。

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続きます。